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短いお昼休憩が終わり美沙貴と私が立ち上がった時に、朔夜が休憩室に入って来た。
「あ、お疲れ様です。」
朔夜は私たちの1年先輩だから、恋人と言えども職場ではきっちり頭を下げる。
「お疲れ~。」
疲れた笑顔を見せた朔夜は、コンビニの袋をテーブルに置いた。
コンビニ弁当の入った袋の中にタバコの箱も一緒に入っているのを見つけて、驚いた私はえ?! と小さく声を漏らした。
私と付き合うようになってから、朔夜はタバコをやめたはずなのに。
その時、ドアが開いて綾子チーフが顔を覗かせたので、私の声は誰にも聞き咎められることはなかった。
「お疲れ様です。」
「お疲れ様。ちょっとニコチンとらせて。」
少しバツの悪そうな表情で、タバコとライターを入れたポーチを手に綾子チーフは休憩室の奥のスペースに入っていく。
そこにはシンクとコンロがあって、喫煙者はレンジフードの下でタバコを吸うのだ。
コンビニ弁当を電子レンジに入れた朔夜から目を逸らして、私は休憩室を出た。すぐに美沙貴も出てくる。
「綾子さんってさ、お昼食べてないよね?」
私の気持ちを察した美沙貴の、躊躇いがちな言葉が背中を追いかけてきた。
「そうだね。ここ数日お昼取ってるの見たことない。タバコ休憩だけで。」
非喫煙者の私からすると、一服する時間でおにぎり一つでも食べたらいいんじゃないかと思うけど。
「よくぶっ倒れないよね。朝早くから夜遅くまで。それなのに、お肌ボロボロになってないんだから凄い。」
「でも、身体に良くないことは確かだよね。ニコチンが食事代わりなんて。子どもはまだ考えてないにしてもねぇ?」
綾子チーフは32歳。既婚者だけど、あの調子だと妊娠はまだのようだ。
「チーフになったばかりだもん。今が正念場なんでしょ? いくらお給料が良くたってあそこまでしなくちゃいけないなら、私はチーフになんてなりたくないな。」
「私も。」
まだ2年目の私たちが言うセリフじゃないけど、綾子チーフを見ていると本当にそう思う。
バックヤードの暗い廊下を抜けて売り場のドアを開けると、眩しいほどの地獄が待っていた。
「さあ、戦線に復帰しますか。」
美沙貴と頷き合って、レジに向かった。
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