雪起こし

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*** 一昨年の5月。入社後の店舗研修を終えて笠井駅前店に配属された私は、すぐに朔夜に恋をした。 まだ2年目だというのに、朔夜はすでにこの店舗にはなくてはならない存在だった。 失敗をさりげなくフォローしてくれる頼りがいのある先輩。 柔らかい物腰。優しい笑顔。ミスをして落ち込んでいると缶コーヒーをポンと投げて寄こす。 そんな彼に惹かれずにはいられなかった。 勇気を出して告白したのは、ハロウィーンセールの後。 他の子たちよりも私に目をかけてくれているような気がして、もしかしたら彼も私のことを……なんて自惚れていた。 好きです、付き合って下さいと告げた私は、木っ端微塵に砕け散った。 「ごめんね。失恋したばかりで、とても誰かと付き合う気にはなれないんだ。」 告白してきた女の子の心を傷つけないようにと、いつもそう言って断っているんだろう。彼らしい断り方だと思った。 玉砕した翌日は出勤するのが嫌で仮病を使おうかと思ったけど、社会人たるもの、そうはいかない。 瞼を泣き腫らした私を見て、彼は申し訳なさそうな顔をしたけど、その後もそれまでと同じように接してくれた。優しい笑顔に少し気遣うような眼差しが加わったけど。 私は私で、交際を断られたからと言ってすぐに彼への気持ちが消えるわけもなく、それまでと同じように彼の言葉や仕草に切なく胸を焦がし続けた。 ところが、告白から2か月後のクリスマスの日。 もう翌日からは使えなくなるクリスマス用のラッピング用品をまとめて、倉庫に片付けに行った私は、そこで朔夜とバッタリ出会った。 2人きりになるのは告白の日以来のことで、気まずくなった私は早々に立ち去ろうとしたのに。 「久保さん、待って。」 「はい、何でしょう?」 朔夜に呼び止められて、私は逃げ出したい気持ちを必死に抑えながら彼と向き合った。 「あの時の告白はまだ有効かな?」 「え?!」 「まだ有効なら、答えをYesに変えたいんだけど。」 「それって、つまり……私と付き合ってもいいってことですか?」 「うん。」 感激してポロポロ泣き出した私に、彼はまいったなと呟いて、私たちの交際はスタートした。
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