クロスロード

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 用紙から矢田というヤクザへ顔を上げ、スコンと抜けてしまった思考の中で尋ねた。ううん。僕はヤクザに助けを求めたんだ。 「ふーん。その様子だと知らなかったみたいだね」  男は僅かに首を傾げ僕の顔をシゲシゲと眺めていた。威圧感はないけど奇妙な感じ。保証人が偽装だったのに、それについてまったく困った素振りも見えない。それに借金取立てにしてはさっきからやけに淡々としてる。テレビや映画なんかではもっと凄みをきかせビビらせるのに。 「あ、……あの……」 「でもこのとおり、残念ながら連帯保証人としてお金は返してもらわなくちゃいけない。返せる?」  矢田さんはそう言いながら腰を折り、コタツの前であぐらをかいた。シャツのポケットからタバコを取り出し一本咥え、断りもなく火を点ける。深く吸いこむとタバコの先端が真っ赤になった。 「ふー」  天井へ向けて白い煙を吐き出す矢田さん。僕はその煙を呆然と見つめた。  そんなの返せるわけがない。たかだか十五万円でも泣く泣くだったんだ。なのに三百って……そんな大金、そもそも偽装なのに僕が返すなんて道理があるわけない。僕はめっそうもないと、首を素早く左右に振った。矢田さんは立ち尽くす僕を見上げタバコを吸い、煙を吐き出しながら言った。 「灰皿持ってきてくれるかな」 「えっと……僕、タバコ吸わないので」  思わず率直に返事をしてしまった。  相手は僕からお金をむしり取ろうとしてるヤクザなのに、どうすんだよ! と自分をド叱る。更なるパニックを起こしてる僕に、矢田さんは「あ、そう」と穏やかに言い、矢田さんの横、絨毯の上をポンポンと軽く叩いた。 「座って」
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