二人の足跡

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 大学生になり、俺が始めたアルバイトは塾の講師だった。中学、高校と、人より少しばかり数学が出来たという、何とも陳腐な理由で履歴書を書き、入学式以来のスーツに身を包み面接受け、気が付けば、俺は高校生を前にして教鞭を取っていた。 「この問題は、平行線の性質を用いて解くのな。そこで、平行線の性質というのが──」  アルバイトを始めて10ヶ月が経とうとしていた。俺が受け持つクラスの生徒ともそれなりに仲良くなり、今では世間話をするまでになっていた。しかし、生徒との関係は注意しなくてはならない。ここでの採用が決まって以降、学長が口を酸っぱくして言っていた。 「生徒と交際関係を持つのは、厳禁だからね。まあ、川口くんなら大丈夫だと思うけど」  最後の一言は余計だよと思いながらも、生徒との関係、特に女子生徒との関係は注意してきたつもりだ。如何せん、高校生ともなれば年が近い分、俺からも馴れ馴れしく接してしまう事もある。しかし、そこは仕事であるからときちんと減り張りをつけてこれまでこの仕事を続けてきた。
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