二人の足跡

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 前日の雪のせいで、この日の授業はいつもより早く終わり、生徒達は皆嬉しそうに親御さんの車に乗り込んでいった。そんな中、またしても小野田は一人入口でスマホを握り締めていた。 「どうした?今日も連絡つかないのか?」  「川口先生・・・、実は今日は親の帰りが遅くて・・・それで、いつもの時間に終わると思ってたから・・・連絡が・・・」  どの家庭も呼べば来るという訳では無いようだ。それもそうだ、どの家庭にも事情というものがある。 「なら、また一緒に帰るか?流石に、この中一人で帰るのも危ないしな」 「本当ですか?!ありがとうございます!」  小野田はまるで子犬が尻尾を振っているかの如く喜んでいる。余程困っていたのだろう。俺は昨日と同じ様に、職員室に戻り退勤に印をつけると、小野田と校舎を出た。 「先生は大学で何をしてるんですか?」 「何って、工学の勉強かな。難しくて、良く分かってないんだけどね」 「先生って、本当に理系の人なんですね」 「そんな、理系っぽく見える?」 「うーん・・・、文系には見えないですね」 「消去法で理系なのね」  俺らが通る道は雪かきがされなかったのか、昨夜付けた二人の足跡が綺麗に残っていた。 「先生、見て下さい!これ昨日の足跡ですよ!」  一直線に伸びるその足跡は、時より同じ歩幅になりながら、時には足が揃いながら、平行線の様に伸びていた。 「残ってるもんなんだな」  俺達はそれをなぞる様にして、交番まで歩いて行った。  雪が降って二日が経った。一面銀世界だった外の様子はすっかり変わり、所々地肌が剥き出しになっていた。  その夜はシフトが入っておらず、アパートの自室で一人テレビを見ていると、ふと小野田のことが頭をよぎった。確か、彼女は今日も塾に来ているはず。彼女は二日連続で親と連絡がつかず、俺と一緒に帰った。もしかしたら、今日も授業が終わって一人、入口で親の連絡を待っているかもしれない。いや、流石に雪も溶けてきたし、一人で帰るか。小野田も普段は自転車で来ていたはずだから、流石に今日は自転車で来るだろう。 『今週一週間の天気です。関東は未だに雪が残っていますが、三日後には、またしても雪の予報が出ています。雪の対策をしっかりしましょう──』 「また降るのかよ」  不意に流れた天気予報を横目に、俺はお天気お姉さんに愚痴をこぼしながら、窓の外を眺めた。
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