二人の足跡

6/6
前へ
/6ページ
次へ
 翌日、相変わらず自転車は塾に置きっぱなしのままなので、歩いて塾に向かう。ついでに、塾から拝借し、返し忘れていた傘を持って家を出た。俺はわざわざ小野田と一緒に歩いて帰った道を通って塾に向かった。昨日小野田が歩いて帰ったのかが気になったからだ。本人に直接聞けばいいのだろうが、生憎今日は小野田は来ない。交番の前まで来ると、そこには、溶けてはいるものの、未だに二人の足跡が残っていた。 「誰も雪かきしないんだな」  俺は今一度並んで歩くその足跡を眺めた。すると、その光景があまりにも可笑しかったのか、俺は思わず笑ってしまった。誰も雪かきをしていないからじゃない、足跡が残っているからじゃない、改めてその足跡を見て、小野田の足取りが不自然であることに気が付いたのだ。 「あいつ、俺に合わせてたのかよ」  小野田より背の高い俺は自然と歩幅も大きくなる。その歩幅に合わせようと、彼女は俺よりもたくさん足跡をつけていのだ。小野田があの夜、どのように歩いていのかを想像し、思わず笑ってしまったのだ。 「もう少し、ゆっくり歩いてやれば良かったな」  塾に着き、職員室で出勤に印を付けると、ポリバケツに傘を戻した。すると、持ち手に紙が括り付けられた傘があることに気が付いた。俺は、不思議に思いそれを外し、紙に書かれていた内容を読み、思わず微笑んでしまった。 『また、雪が降ったらお願いします』  宛名の無いそのメッセージは、可愛らしいフォントで書かれていた。  その夜、俺は自転車でアパートまで帰った。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加