【花の章】

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【花の章】

 校舎までの道を桜の雪が降り注ぐ。すっかり暖かくなった気温に春色の香りが混ざる。いよいよ、二年生に上がる日がきたという喜びと少しの不安が入り交じる。折角、馴染んできたクラスだったから尚更惜しい気持ちで一杯だった。  下駄箱の先には新しいクラス割が掲示されているため、人集りが出来ている。梨沙も緊張を抑えるように息を吐くと靴を履き替え、掲示板の前まできた。五クラスある中を目で自分の名を探す。そして、見つけた後は誰と一緒になれるかを見ていった。 『佐伯秀』 『深澤奈央』 『前田梨沙』 『真壁香』  秀の名前を見つけ、驚いた後に更に奈央と香の名前を見つけ、喜びで踊り出したくなる。それだけで良かったのに、最後の辺りまで名前を見ていってしまった。 『渡井真冬』  その名前を見つけた瞬間、奈央の顔が浮かぶ。悲しそうな表情で秀と真冬のいる姿を見つめる風景が頭に浮かぶ。梨沙の抱いた喜びは一気に濁り始めてしまった。人集りを抜けようとすると、隣に誰かが並び立つ。正確には上手く抜けれない間に隣り合ったに近い。目に映る艶やかな金色の髪に梨沙は立ち止まってしまった。整った顔立ちに切れ長の目と長い睫毛。無表情だった顔に笑顔が咲いたのを見て、同性の梨沙でさえ、見蕩れていた。すると、真冬の視線が梨沙に向けられる。互いの視線が重なると、微笑みかけてくれた。 「前田梨沙さんだよね? 同じクラスになる渡井真冬っていうの。よろしくね?」  クラスの噂は当てにならないとこれほど思った事はなかった。浮いた外見から、秀以外の交友関係は見たことはなく、廊下でも距離を置かれているのを見かけた事がある。更には色々と良くない噂や生徒指導の教師から注意されているのも目撃した事があるぐらいだった。 「何で私を知ってるの……? 一緒のクラスでもないのに」 「転校して来た時期とかかな、珍しいなって。後は秀に聞いた」  香の声を聞いているかのような感覚。凛とした声色は透き通っているのに尾を引くような頭に残る感覚。梨沙もその見た目から、不良だと思っていた。でも、制服を着崩しているわけでもなければスカートを短くしているわけでもない。金髪に似合う顔立ちが取っ付き難いようにしているような気がした。
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