1.受験の足音

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「本当なのかな」 「美鈴のこと?」 「うん」  瑠璃と橙子は同じ予備校に通っている。瑠璃と橙子は元々同じ中学校出身で、家も近い。最寄りのK駅はN校から少し離れているため、同じ高校のメンバーはほとんどいなかった。  といっても、橙子は二年生の後半から既に通っていて、瑠璃が入会したのは今月に入ってからだ。大教室に集まって授業を行う形式ではなく、各々が授業の映像を見て自分のペースで勝手に学習を進めていくスタイルで、自宅のパソコンからでも受講出来るというのが売りだった。 「昨日の美鈴……変だったよね。変っていうか、普通すぎた」  ぼそぼそと呟く瑠璃に、橙子も頷く。今日の橙子は頭の高い位置で髪を結い上げていて、頷く度にくるくる巻いた毛先が跳びはねた。 「違和感しかない」 「普段はちょっと喧嘩するだけで大騒ぎだもんねえ」  休憩室と名付けられた広めの部屋には白い机がいくつも並んでおり、好きな時間に休んだり飲食したり出来る。パソコンの並ぶ教室とは違い、この室内だけは私語も許されていた。 「そういえば、久我君もここなんだよ」 「そうなの?」 「玉城君も。一緒にいるとこよく見る」 「ああ……あの二人目立つから」  美鈴は久我と付き合っていた。彼らと話したことはほとんどないが、それでも二人のことは耳に入ってくる。物静かな久我と、人懐っこい性格の玉城はどちらも整った顔立ちをしていて、下級生の間ではファンも多い。 「二人とも超頭いいんでしょ?もっとガチガチの予備校とかかと思ってた」 「逆に頭良すぎて授業だと物足りないんじゃないかなあ」 「ふーん……」
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