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序章:過去の物語が今。
時をさかのぼること…ここは江戸時代。
魑魅魍魎のものたちを恐れ、災いなどが起こらぬよう人々はあえて触れず、
でも崇めること忘れず、姿を見ることもないものたちの存在を信じ切っていた。
そんな時代であったが、この物語で登場する最初の恋人たちをご紹介しよう。
…おや?早速、月明かりに導かれるように男女が桜の木の下で肩を寄せ合っているようだ。
「今宵も桜の花が月明かりで妖しく光っているように見えるな…」
「本当に…物悲しく見えます。でも、美しいですね」
月明かりだけでは、あまり互いの顔もどんな服を着ているのかも見えにくいはずだが、
この2人は互いを認識し合い、愛を高め合っているようだ。
男は女の肩を抱き自分の厚い胸板に引き寄せ、
女は恍惚とした表情で男にされるがまま身体を預けているようだった。
「ここの桜は満開になってからしばらくはずっとこの調子で咲き乱れる。
私たちもそれくらいずっと長く寄り添っていたいものだが…」
「…そうですね。永遠に来世までもあなた様のお傍にいたいです」
女は物悲しそうな表情で、うるんだ瞳を男に向けた。
男も、女を愛おしく想っているのかじっとその瞳を見つめていた。
次第に二人の唇は自然と近づき…。
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