牽引

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牽引

 交差点を右折したら、少し前をおかしな車が走っていた。  軽トラまではいかないが、かなり小さめのトラックだ。そいつが、制限速度五十キロの道を二十キロ程度の速度で走っている。  しかも奇妙なことに、二台から数本のロープが車体の外まで伸びていて、それが全部ピンと張られた状態になっているのだ。  荷台からはみ出しているのはワイヤー入りのロープで、決して曲げない状態で届けてくれとでも言われているのだろうか。そして速度の遅さは、ロープが飛ばないよう配慮してものものだろうか。  幸いにも二車線ある道なので、おかしな車だなと思いながら横を通りすぎたのだが、なんとなく気になってトラックをサイドミラーで窺った時、そこにありえない物が映った。  トラックの後ろに、ロープで牽引されているもう一台の車が存在しているのだ。  ぱっと見ただけでもフロントが無残に潰れているのが判る。もしあれが交通事故で潰れたものなら、ドライバーは無事ではすまなかっただろう。  でも驚きのポイントはそこじゃない。  ミラー越しに見える牽引されている車は、肉眼ではまったく見ることができなかったのだ。  トラックの斜め後ろ辺りにつけ、並走してみるが、目に映るのは荷台からはみ出るピンと張ったロープだけだ。なのに前方へ進んでミラー越しにそちらを見ると、トラックの後ろには潰れた車が存在している。  間違いなく関わらない方がいい代物だ。そう思い、俺は速度を速めてトラックもその背後の車も見えなくなる位置まで進んだ。  あれは絶対見えてはいけないものだし、見えたとしても無視しなくてはいけないものだ。  でもあれだけゆっくり走っていたら、煽り運転で嫌がらせされる可能性もある。  確かに、遅すぎる車がいるとイラつく気持ちは判るが、二車線あるんだ。下手に関わらずさっさと追い越してしまえばそれで充分だ。だからちょっかいをかける車なんて現れなければいい。  そう思った直後も直後、遥か後方で何かがぶつかり合うような大きな音が響いた。  どうやら、俺の心配が実現してしまった可能性が高い。  あの寝牽引されている車とぶつかったのだとしたら、相手車両はどうなったのか。  気にはなるけれど引き返してまで見物する気はないから、俺はこのまま振り返らず目的地へ向かおう。 牽引…完
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