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「うちの会社、またリストラだってさ。」
「へぇ。」
朝刊の1面に夫の会社名が『リストラ』の文字と共に出ている。
正確には親会社の名前であり、夫の勤務しているのはその、子会社だ。
前回は8年前、夫はまだ、五十路前だったが、この時は『対岸の火事』でしかなかった。子会社だし、役付きではないし、子ども3人いるし、専業主婦だし―妙な根拠で対象外のはずだと信じ、そして実際に早期退職者になることはなかった。
夫は出世街道をばく進しているわけでもないし、何か野心を持ち合わせているわけでもない、おそらくごく普通の50代だろう。
決して高給とは言えないが、ごく普通の生活が出来ているのだから、私には何の不満もない。
ここで私の考えている『ごく普通』というのは、普通に三食食べられて、子どもたちは学校に通えるということで、月一で家族で外食とか、長期休暇は家族旅行とか、そういうことは考えていない。
まあ、話で聞いたり、年賀状の異国情緒あふれる風景の中に写る家族写真を見たりすると、羨ましいとは思わなくもないけれど、誰にでも身の丈に合った生活があるのだからと折り合いをつける。
そんなわけだから、一度目のリストラ後、給料が多少減ってもこの生活が続くのならば、それで十分なのだ。
ところが、だ。
今回は、『リストラ』の4文字が甚く気になる。
気になる、というより、気にかかる。
夫は定年退職まであと3年、平穏無事に定年退職の日を迎えてくれることが私の願いだ。
が、そういう『願い』は往々にして叶わないことが多いことも経験上、私は知っている。
『どうしても』と思うものほど手に入らない。
よって、夫から『リストラ』を告げられたと仮定してみる。
帰宅後、開口一番、『リストラ…された。』と夫。
『そっか…長い間、ご苦労様。少しのんびりしてから考え…』
いや、『少しのんびり』なんて言ってはいけない。
何しろ、マイペースな人なのだ。
ちょっと努力をして上を目指すより、楽してそこそこで満足な人なのだ。
そんな人に『のんびりしてから考えろ』なんて言ったら、それこそ自由気ままにインターネットとテレビとゲームにどっぷりと浸かってしまうだろう。
『長い間』女房と子どものために働いたのだから、もういいだろう、となってしまう。
いやいや、それはまだ早い。
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