下手食物誌 その三十八

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下手食物誌 その三十八

「灰色の乾パン」 不味さの基準として幼児の私の記憶に居座った、終戦時の配給品の味  記憶に残るいくつかの旨(うま)いものはあるが、それは母の手料理で、いい思い出の味というべきもの、いわゆる食通的美味とは異なる料理かもしれない。  食通的美味では、友人Yに一枚何万円というビーフステーキをご馳走(ちそう)になったこともあり、たしかに旨かったが、それだけの金を払えば旨くて当り前だろうと、胸に焼きつく感激はなかった。  高貴な食材だという白トリュフ料理を、これも別の友人にご馳走になったのだが、その香りのせいか、食後なんだか自分が高貴な人間になったような錯覚があった。金持ちだというだけで偉そうな顔をしている者がいるが、なるほどこういう錯覚のしからしむところかと、合点(がてん)がいった。
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