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私には分からない。
「どうして、そんな家庭に拘るの?」
″そんな″ とは言い過ぎかもしれない。
だけど。
偽って結婚をさせ、料理も仕事もしない寝てばかりの妻と、血の繋がらない子供。
それを守る事がそんなに大切なのか。
家庭が壊れた私には分からない。
大橋は、少しだけ目を潤ませて答えてくれた。
「本当は考えたよ。…全部捨てて…梓と遠くに行けたらって。…手紙貰って本気で考えた」
途切れ途切れに話すその言葉に、誤魔化しや嘘は感じられなかった。
「だけど。どんなに考えても行き着く答えは決まってる。俺は、アユミを見捨てられない」
この時。
初めて、大橋は奥さんの名前を口にした。
どこかで聞いた事のある名前だと思った。
その人もまた理の知り合いかもしれない。
「…もう、私と会わなくても、平気なの?」
私と恋をする事で、現実逃避するんだと言っていたのに。
「梓が幸せになってくれれば、それでいいよ」
大橋は、最後に握手を求めてサヨナラをしようとした。
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