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「若……またそのようなことを」  呟かれるように発せられた声。たぶん心の中でため息をついているに違いない。運転している行徳は何も言わずに、ただ車を走らせることに集中しているように見える。たぶん、俺のことをバカにしているだろう。  行徳の心酔する男は助手席で考えている。どうやって俺の気持ちを改めさせようかと。 「いい加減、桜沢もオヤジも諦めたらどうなんだ?今晩俺が行ったところで二度手間になるだけだ。俺は何一つ確かなことを言ってやれないから、全員が桜沢に話を通しにくるだろう。 だったらお前が行けば手間が省ける。無駄なことはお互いナシにしようって話だよ」  呆れたか?  でも実際そのとおりなのだから仕方がない。うちが納めている上納金の大部分を叩きだしているのが桜沢だ。古いタイプのオヤジと上手くやりつつ、新しいことにも目がない。  権田の「若頭」といえば若頭補佐である桜沢のことを指し示す。俺は「お飾りの若」だ。そうやってバカにされていることぐらい知っているさ。 「わかりました。今晩は自分が行きますが、次回は絶対お願いします」 「そうするよ」  何百回と繰り返されたやりとり。俺が行くことなんか絶対ない、それをわかっていてお互いに納得したふりをする。  バカバカしい茶番。
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