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 桜沢と会ったのは俺が18歳の時だ。桜沢はまだ中学を卒業する前の子供で14歳だった。田倉に連れてこられた子供の顔を見て一瞬で悟る。自分なんかよりずっとヤクザに向いた人間だということを。  父親と母親のなれ初めに興味はないが、愛で結びついた結婚ではない。これだけはハッキリしていた。  母親と俺は離れで暮らしていたし、そこに父親がやってくることはほとんどなかった。  母親は俺をヤクザと無縁の人間に仕上げようと躍起になっていた。美術館や博物館、水族館、動物園に植物園。子供の頃から外出といえばそんな場所ばかりだったし、才能もないのにピアノを習わせた。バイオリンやら、クラシックギター。ありとあらゆるゲイジュツ的な習い事。どれも長続きしなかったし楽しくなかった。  俺の興味は庭にむかっており、花や草木を眺める時間が一番好きだったし落ち着いた。  母親はもちろん喜んだ。  園芸好きのヤクザの子供なんか誰が嬉しがる?ヤクザなら顔をしかめるに違いない。だから母親は俺がヤクザから遠ざかった証として、庭を好きにいじらせてくれた。  母親の興味は俺をヤクザにむかない男に育てあげること。つまり父親を困らせることに絞られていた。そんな気持ちしか持ち合わせないで長生きなんかできるはずもない。  どんどん生きることに無気力になり、この世から去る事だけを願うようになった。  まあ、それも仕方がない、俺はヤクザから遠い人間に育ったし、父親は俺達を完全に無視した生活をしていたのだから。  結局は風邪をこじらせ肺炎になりこの世を去った。病院に行くことを拒み、往診にきた医者が処方した薬を飲むことを拒否し続けた。あれは緩慢な自殺だ。  母親の死んだ離れに住みたくない、そう田倉に言うと部屋が移された――オヤジの隣の部屋に。そしてまだガキでしかない桜沢が俺の世話役になり行動を共にするようになった。  母親は自分の死によって、俺がヤクザに近づいたことをあの世でどう思ったのだろう。あの世にいってしまえば、現世なんかクソ喰らえだろう。  俺は何の目的もないまま、母親と同じような無気力な毎日を漂うだけの男になった。
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