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世の中は「都内同時銃撃事件」でもちきりだった。ホテルでゴロゴロしていた俺はニュースをほとんど見ていなかったから、浦島太郎の気分だ。
ヤクザより凶暴な組織があるのかと妙に感心し、犯行声明が親しみやすい文章であることに呆れた。この愉快犯には大義も何も感じられなかったし、遊びの延長が大騒ぎになりまして困っちゃった。そんなことを言いそうな連中だと勝手に想像する。
皓月が何か企んでいるのだとしたら、丁度いい。世間の目はテロに行き、ヤクザや麻薬、香港のことなど考えもしないだろう。
本家に戻り最初に庭に行った。当然手入れする人間はおらず、三下に云いつけておくべきだったと後悔した。水枯れ寸前の庭にたっぷり水を蒔き「悪かったな、次からちゃんとするから機嫌を直してくれよ」そんな言葉を掛けながら庭の植物の点検をする。
庭に面した廊下を通る組員が目を逸らしながら足早に歩いていくのを何度も見た。相手は気まずいだろう。オヤジの息子が花にむかってブツブツ話しかけているなんて、ヤクザの目には異様にしか映らない。
皓月の所にいけば、これが日常になる。「信用できる人間がいない中でずっと生きてきた」皓月はそう言った。「疑うことを繰り返すと、信じることがどういうことだったのかを忘れてしまう」そういう世界らしい。そこにある晧月の人生はいったい何色なのだろう。
トップに立てば逆らう人間がいなくなり物事がもっとスムーズになるのだろうか?いや、逆だろう。引きずり降ろそうとする人間はどのポジションに立っても存在する。
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