十六

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「驚きました。なんといいますか……随分色気が増しましたね」  榊は開口一番そう言った。あんだけやりまくっていたら、変なものを垂れ流して当然だ。俺の血液には絶対皓月の細胞が取りこまれているに違いない。何でも吸収する腸壁は皓月の精子からコアを溜め込んだはずだ。  たった数日だというのに、俺は落ち着きを身に着け、自分を客観視できるようになっている。それはまさしく皓月の姿であり、香りと同じく体内にも皓月が移り住んだのだ。 「お世辞をもらうためにここに来たわけじゃないのですよ。オヤジに隠れてここに来ているわけだから話しは単純明快にお願いしたい。 あれだけオヤジにつっかかっていた榊組長が何故権田にこんなうまい話を投げてよこしたのですか?俺はそれが解せません」  小菅はアングリと口をあける寸前で思いとどまったようだ。驚いた顔で俺を見た後視線を逸らせる。  あまりアホい男のままだとまずいだろうと思ったのだが、当たり前の質問すらできない男だと思われていたらしい。残念をとおりこして、いささか悲しい現実だ。 「我々龍成会の意向というよりは先方さんの指名なのです」 「先方?」 「香港です」 「指名の意味がわからない。権田はヤクご法度で絶対やらないと明言している。そこを指名とは、何かの余興ですか?」  榊はニヤリと笑う。その卑しい笑みと視線は俺をバカにしている。それと興味。それも性的な部類。やれやれ。 「余興?とんでもない。やらないと言っている組を口説いたとなると、今後の商談にメリットになるからですよ。権田を口説き落としたとなれば相当ブツがいいか、商才があるかということになる。 人の噂は育ちますから、それが事実である必要はない。ブツがいいと広まればウチだってメリット。もちろん先方も、そして権田さんも」 「なるほど」
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