十六

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 少しカマをかけてみるか。不本意な眺めだが榊の反応を観察しなくては。 「リスクはどうなんです?始めた早々に麻取にパクられるのはごめんです」 「大丈夫ですよ。先方は香港を仕切る大龍の人間だ。絶大な力を各方面にもっている。そちらに動きがあれば真っ先に知ることができる、そういう相手です」  自信満々の表情を浮かべる榊は鳥肌がでるほど気持ち悪い。この口ぶりだとコウが仕掛けた罠を把握していないとみていい。俺が話に乗った振りをすれば榊と香霧が次の段階に進むというコウの見立てどおりだ。  そろそろ面倒くさい気持ちが好奇心を上回りそうだから止め時だ。俺の頑張りがこの程度であることに安堵した。切れ者ならこんな中途半端なところで切り上げないだろう。 「わかりました。俺がどんなに頭を振り絞っても何もでてきません。今回は榊組長を信じましょう。ただ表だって俺が動くわけにはいかないので小菅にやらせます。手始めはそれでいいですか?」 「まったく問題なし。商談成立ですね。近日中に先方と顔繋ぎの席を設けますので、楽しみにしていてください」  これ以上何か言われる前に立ち上がる。 「では俺は帰らせていただきます。小菅、あとを頼んだぞ」  そのままのんびりといった風情で店内を歩き外にでた。タクシーに乗るか。今日はどちらに帰るべきだろうか。
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