十七

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 デスクの上にある備え付けの電話の音で目が覚めた。フロントか?サイドテーブルの上にある携帯に着信があった形跡がない。  フロントを通しての連絡……私の居場所を把握していると言わんばかりじゃないか。 『Hello,Mr』 「日本語で構わない」 『失礼いたしました。外線が入っております。お繋ぎいたしますか?』 「相手はルームナンバーまで言ったのか?」 『はい』  気に入らない。自分の居場所が人に知られているという事だ。情報というものは完全にブロックすることはできない。どんなに神経を使っても漏れ出るものを止めることはできない。  ヨシキはぐっすりと眠り起きる気配はなかった。電話の相手によっては叩き起こして移動させる必要がある。 「先方の名前は?」 『イツキ様とおっしゃっております』  斉宮か……憎たらしいほど冷静で頭の切れる男、それが斉宮の印象だ。どのような組織を動かしているのかわからないが、こと情報面に関して手に入らないものはない。  スキャンダルの火種を山のようにキープしており、少々高い値段設定であるが物は確実。交渉ごとにおいて手札として持っていれば成立しない契約はない。  望みのものを伝え、情報という名の商品を売ってもらう。この関係は私が大龍となった後も日本というフィールドで必要不可欠の物であり、それは互いの関係が継続していくことを意味している。  斉宮に今回の来日の件は伝えていないし、ホテルにしても同様だ。これは私がアメリカ人にしたことと同じで、自分がする分には痛快だが、やられる側になった時は不愉快でしかない。 「わかった。繋いでくれ」 『かしこまりました』  一瞬の間のあと、回線がつながる。 『イ尓好』 「How are you?」  バカバカしいやりとりだ。広東語などいらない、日本語で充分ではないか。英語で返す自分も大概子供っぽいが。
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