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『随分なご挨拶ですね。長々前置きする必要もありませんから端的に。麻取りの動きは把握していますか?』
恩を売ったり買ったりする間柄ではない。こんなことで連絡してきたことは今までなかった。であれば麻取のネタを見返りに欲しい情報があるということか。
「把握している。大龍のルートを叩くという動きだろう?あれは香霧が急に色気を出したせいで、私が動くことになったまでの話だ。私の罠にかかる程度では大龍の器ではない。切り抜けるとしたら多少は認めてやろうと思ってな」
『なるほど、そういうことでしたか。ソースがあなただったとはね』
「『それではサヨウナラ』とはいかないぞ、何故私に連絡してきた?」
電話口の向こうから煙草の吸いさしを挟む僅かなリップ音が聞こえてきた。耳をくすぐるその音は、私の手をヨシキに伸ばし触れることにつながる。ウエストから腰にかけてのカーブと体温は、私の身体に熱を生むには充分な存在だ。
『少しややこしい問題が持ち上がって、絡まった糸をほぐしていると、ひょんな所から龍成会に繋がった。そしてヤクご法度の権田に動きが出たわけです。ボンクラ若頭と腰巾着が躍らされており、これはいささか私にも問題なのですよ。だからそれに貴方が絡んでいるのなら真意を聞こうかと』
いくら斉宮でもヨシキの事をボンクラ呼ばわりしていいわけがない。腹の底から怒りがふつふつと沸きあがる。
「お前はボンクラが嫌いな人間だろう?それにヤクザとは違う所に位置しているはずだ。なぜボンクラとヤクザが問題になるというのだ。それに罠である麻取の情報をどこで手に入れた?」
『まあ、貴方になら言ってもいいでしょう。情報を入手したのは私ではありません。権田の桜沢ですよ。彼は警察組織にパイプを持っている。警察だけではないということも付け加えよう』
ヨシキが「好き」とあっさり認めた男――桜沢。いちいち目障りな存在だが出来る男らしい。情報面にも長け、ヨシキの代わりに権田の業務を取り仕切っているに違いない。おまけに斉宮とつながっているとは、ますます面白くない。
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