十七

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「喰えない男だな」 『そのままお返しします』  初めて電話口で互いの沈黙が横たわる。そろそろ会話を切り上げる頃合いの合図。最後に締めるは私の役目なので、いつものように一言添えようとした同時に言葉が被った。 『いくら貴方でも、権田に不利益を与えるなら全力で阻止させていただきます。それだけは覚えておいてください。ではまた近いうちに』  斉宮は言いたいことだけを言って電話を切った。あの冷静な男でも心を波立たせる事柄を持っていることに驚く。まさかヨシキを心配している? 「間違った場所だと感じているのは、白兎だけなのかもしれないな」  ピアスで飾られた左耳をクニクニともてあそぶ。閉じられた瞼の下で眼球が動き、ゆっくりと茶色の瞳がぼやけた視線を私によこす。 「こ……?」  皓月、コウ、コウゲツ、アンタ、こ。何でもいい。私のことを指し示すヨシキが紡ぐ名前。誰に呼ばれるよりも胸を温め、体を熱くさせ、そして体の芯に火を灯す。伸ばされた手のひらを受け取り、唇を落す。 「俺の手から水を飲んでいるみたいだな」  ああ、そうだ。命は海に生まれて水とともに育まれ、月によって命を繋ぐ。私は兎によって生命を確固たるものとし、月によって兎は輝く。  伸ばされた手を確かめるために、私は深く潜りこむ。ヨシキの中に、その心と身体に。覆いかぶさる私の重みを受け止めヨシキは言った。 「連れて行って……」  ああ、お前の望むままに。
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