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駐車場の、「送迎」の車がいつもより、多い。
彼のいる子を、彼が送迎に車で来ている事もあるし、お嬢様の場合は、運転手付きの自家用の高級車が止まっている事もある。
そして、ナンパ目的の、他校の男子生徒も。
品定めをされるような視線を感じながら、車の間を足早に歩く。
白いレースのブラウスにあわせた、少し丈の長いリバティプリントのスカートが足にまとわりつく。
「ね、これから授業?」
男性の声がした。
私は、一瞥もせず、通りすぎる。
「ね、君、可愛いね。名前、教えて」
追いすがるような声を、ふりほどくように、私は歩幅を広げ、歩くスピードを上げる。
もう、声は追いかけてこなかった。
誰にでも声をかけているのはわかっているけれど、ああいう輩を相手にする女子学生もいるという事。
だから、あんな事を平気で出来るのだ・・
私にとって、まだ見ぬ『その人』との出会いをどれだけ、夢見た事か・・・
どれほど、待ちわびたことか・・・
それだけに、出会えたときの衝撃がどれほどのものか、想像を超えるものがあるだろうという事はなんとなくわかっていた。
そんな私が、『その人』に出会った時、自分から声をかける事が出来るだろうか?。
想像 するだけで、呼吸が止まりそうだった。
想像だけでも、これだけ心がはやるのに・・・
考えれば考えるほど、私にとって、『その人』への言葉は重さを増していくのだ。
そんな事を考えながら、小走りのまま、駐車場からアゼリアの迷路へと続く、短い階段を上ろうとして、上から降りてきた人影に気づいた。
「おはよう」
いう女性の声が、頭上から聞こえた。
相手の顔を見上げた瞬間、私の頭の上で、学校のチャペルの鐘の音が聞こえたような気がした。
誰?
見たことも無い人だった。
上級生かもしれない。
背 が高く、ショートカットの髪の毛と、漆黒の大きな瞳が、日の光を反射している。
一瞬、細身の男子生徒かと思ったけれど、その声は確かに女性のものだ。
白いシャツに、黒のパンツというシンプルな服装が、尚更、『中性感』を、引き立てていた。
私は、あれほど待ちわびていた「瞬間」に遭遇している事を頭で理解しながら、驚きに、声も出せずにいた。
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