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●鐘の音●
緩やかな稜線を描く、山の中腹にある白い壁の大学。
この季節は、アゼリアの花が、見事に咲き誇る事で有名だった。
その風景だけを切り取れば、本当に綺麗な学舎なのだけれど、私にとっては、日々の通学は、あまり楽しいものでは無かった。
躾の厳しい両親に、育てられた。
生まれ育ったのは、詮索好きのの隣人が多い田舎。
都会の大学に進学すれば、それらから解放されると思っていた。
だけど、そんな気持ちは見事に裏切られた。
高校卒業の嬉しさは、大学入学と共に、あっけなく消えていった。
「教師になりたい」と両親を説得して入学した学校だけれど、お嬢様の多い校風には、一般家庭で育った私には、馴染みにくいものがあったのがその理由のひとつ。
何よりも、ここへ来た一番の理由・・・「巡り会い」に、未だに「巡り会えていない」という事に、苛立ち、あせり、それを通り過ぎて、あきらめの気持ちが徐々に強くなってきている事が、私のモチベーションを著しく下げていた。
ここにも「居ない」・・・・・・・
どこに居るの?
どこに行けば、巡り会えるの?
私は、どこにでもいそうな、少し可愛いだけの女子学生。
そんな姿をしていても、他の女子学生とは『異質』なのだと知ったのは中学生の時だった。
それを自覚したからこそ、ここへ来た。
出会えば、きっとわかる。
都会に出れば人口も多いから、出会いも多いはずと、安易に考えていた自分の思い込みだったのかもしれない。
この時間帯のバスには、同じ大学の女子学生が多い。
大学前のバス停で、バスから降りた、大多数の女子生徒達は、まっすぐに正門へと向かう。
だけど私は、正門からではなく、駐車場から、アゼリアの迷路を抜けて校舎に入るのが、お気に入りのルートだった。
アゼリアの花は、遠くから見るとピンク一色に見える。でも、よく見ると、色々なピンクがある。
可愛らしい淡いピンク、上品な濃い目のピンク、白が混じったピンク、赤みの強いピンク・・・
花を堪能しながら、ゆっくり歩きたいところだけれど、その日は、一つバスを乗り過ごしたので、少し急いでいた。
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