プロローグ

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イルカがスイッと優雅に体を捻りながら、私の前を横切って行く。 横幅三十、高さ四メートル近くもある巨大なイルカの水槽の前に私は立っていた。 青く薄暗い世界。水中にできた光のカーテンが、揺れ動いている。 ここにいると、まるで穏やかな海の中に潜っているみたいだ。 すぐ近くで、幼稚園くらいの小さな男の子が、ガラスに額をくっつけ、はしゃぎながらイルカを追いかけて歩いている。 その向こうでは、カップルが二人で幸せそうにイルカの写真を撮っていた。 いつもなら、たくさんの人で溢れている水中観覧席が静かなのは、イルカショーが行われているからだ。 今、この水槽の上のプールには、たくさんの歓声が溢れているんだろう。 足元に置いた旅行カバンを見て、今日何度目かのため息を吐いた。 大丈夫、平気。たかだか旅行じゃない。一人で行ける。何度そう言い聞かせただろう。 だけど、全く大丈夫なんかじゃない。 持ってきたお金は、往復分のフェリー代を支払った途端に、ほとんど消えてしまった。 北海道についてから、安い宿泊施設が見つからなかったらどうしようとか。船酔いするんじゃないかとか。考えれば、きりがなく不安が湧き上がってくる。 でも、これから私は旅に出なくてはならない。 名古屋から苫小牧まで、フェリーに乗り、海を渡って。 もっと強くなる為に。 答えを出すために。
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