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凛の章Ⅰ「出発の時間を知らせるアナウンス」
「遅くなっちゃった、早く乗らなきゃ」
フェリーターミナルに走り込んで財布を開いた私は目を疑った。
「え、嘘。ない」
さっきまであったはずのフェリーの搭乗券が、財布のどこにも見当たらなかった。
そうだ、きっとリュックの中に間違えて入れちゃったんだ。
リュックを下ろし、中を掻き分けて探してみても搭乗券はない。旅行カバンは開けてもいないから、入っているはずがないし。
「どうしよう……もう時間がないのに」
どこだろう、どこで落としたんだろう。
フェリーターミナルの中をきょろきょろしながら探してみても、どこにも落ちていない。
係員に尋ねると申し訳なさそうに、「搭乗券の落し物は届いていないですね」と言われてしまった。
ここにないとなると考えられるのは、搭乗手続きを早めに済ませたあとに行った水族館だ。でも戻っていたらフェリーが出てしまう。
もう一度リュックや財布の中身を出しながら、搭乗券がどこかに入り込んでいないか探してみる。しかし何度確認しても見つからなかった。
お父さんの気持ちを無視して、友達と旅行の約束があるなんて嘘をついて出てきたから、バチがあたったのかもしれない。
だけどお父さんの彼女と二人きりで、一週間も過ごすなんて耐えられない。
そんなことを考えている場合じゃなかった。
フェリーに乗れなかったら、野宿しなければいけなくなってしまうのに。
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