雪の夜に

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柔らかな積雪に凍りつく木から手折った枝先でキズを付けた。 決して声に出してはいけない。 決して伝えてはならないこの胸の内を、何処かに標しておきたくて、何処かに曝しておきたくて、ひっそりと静まりかえる雪原に独り佇み切なくて、そっと秘かに覚えた言葉を綴ってみた。 "あなたが好きです" たったこれだけの言葉で済んでしまうのに。 何故この言葉を目にするだけで苦しいのか。 何故、吐き出したい思いに心が泣き叫ぶのか。 月をも隠してしまう灰色の雲から、ハラハラと降りてくる白い結晶を恨めしく見詰めて息を吐く。 その息でさえ冷気と混じって目には写らないほど澄んだ場所。 私の居場所にあなたはいない。 会いたい。
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