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願ってはいけない。
想ってもいけない。
触れることは叶わない。
交わしてはいけない約束を、これが最後と刻を待つ。
なんて愚か。
なんて傲慢。
なんて、甘美。
足元の言葉に頬を緩ませ、来てくれる事を祈る。
来てはいけないと願う、自分の欲深き業に呆れてしまう。
無音であった世界に、降り積もる雪を踏み締める音が鳴る。
弾む心に動かされ、勢いを付けて振り向いた視界に半月を背にしたあなたが写る。
勾配あるこの場所へ徒歩で来るには随分と体力を使っただろう。
吐き出す暖かな息は白く天へと立ち昇り霞となって消えた。
来て欲しい、けれど来てはいけないと願っていた思いが見てとれたのか、あなたは柔らかく笑んで私の傍へと雪を鳴らす。
何も声が出てこない。
話したい事があったはずなのに、その姿を目にしただけで思いが喉元を駆け上り、息苦しくて顔を逸らしてしまう。
あなたをまともに見詰めていられない私を、静かに優しい眼差しで眺める様が伝わってくる。
……あなたのその瞳の先に留まっていたい。
そう感じて体が強張る。
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