10人が本棚に入れています
本棚に追加
「なぜ、来たのですか……」
思いとは裏腹な言葉が掠れた声とともにあなたへと向かう。
俯く私を、あなたは悲し気な瞳で見詰めているだろう。
向かい合ったまま身動きもせず、ただ舞い落ちる雪が様子を窺ってくる。
「────言葉には、してもらえないのだろうか」
静かに、とても静かに通るあなたの声に、私のさ迷う視線が一点を捉えた。
白く冷たい絨毯に、残したキズが私の影の中に浮かんでいる。
「君の声で、伝えてはくれないのか?」
困ったように、誘うように、私の心を見透かしたあなたの目が恐ろしい。
「伝えてはいけないの。願ってはいけないの」
「では、僕が願うよ」
「……触れる事も叶わないのに」
「僕は、願う」
あなたの強い瞳が胸を焦がしてしまう。
込み上げてくる思いを吐き出してしまえば楽になるだろう。
「僕は、君に触れたい」
ゆっくりと窺うように伸ばされる手に、私はすがり付きたくて呼吸を忘れた。
「あなたを失いたくない……!」
そう言葉にしてしまうと、伸ばされた手は頬に触れずに空に浮く。
最初のコメントを投稿しよう!