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顔をあげ、見詰め会う時間が狂おしい。
ずっとこうしてあなたを見詰めていたい。
「触れないと、僕が君を失う事になる」
その一言で、私の思いが溢れ出た。
あなたの手の温もりを感じる。
言葉を紡ぐ唇から白い息が吐き出される。
瞬きを忘れた目から暖かな雫が溢れ落ちた。
「……雪、好きだ……僕は雪とともに逝く。独りにはしない」
「……知っていたの?私が涙を流せば消えてしまう者だと……
それでも、ともに居てくれる?」
「その涙は僕のせいだと信じたい。
僕が雪と出会ってしまったから……
僕が雪を好いてしまったから……
僕は雪のモノだ……だから、伝えてくれないか。
願ってくれないか、僕と逝くと」
この苦しさは刻が終わりを告げるからだろうか。
この暖かさはあなたに抱かれているからだろうか。
「……あたたかい……」
人とは決して結ばれる事のない雪の物怪。
愛してはならない"人"と結ばれる。
心を満たす温もりを感じてその身を焦がす様は、生身の者と変わらぬのに。
「あなたが、好きです」
その声は愛しい人の腕の中で冷気と混じる。
凍てつく人の、温もり隠る心とともに天へと消える。
~fin~
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