雪の夜に

6/6
前へ
/6ページ
次へ
顔をあげ、見詰め会う時間が狂おしい。 ずっとこうしてあなたを見詰めていたい。 「触れないと、僕が君を失う事になる」 その一言で、私の思いが(あふ)れ出た。 あなたの手の温もりを感じる。 言葉を紡ぐ唇から白い息が吐き出される。 瞬きを忘れた目から暖かな雫が(こぼ)れ落ちた。 「……雪、好きだ……僕は雪とともに逝く。独りにはしない」 「……知っていたの?私が涙を流せば消えてしまう者だと…… それでも、ともに居てくれる?」 「その涙は僕のせいだと信じたい。 僕が雪と出会ってしまったから…… 僕が雪を好いてしまったから…… 僕は雪のモノだ……だから、伝えてくれないか。 願ってくれないか、僕と逝くと」 この苦しさは(とき)が終わりを告げるからだろうか。 この暖かさはあなたに(いだ)かれているからだろうか。 「……あたたかい……」 人とは決して結ばれる事のない雪の物怪(もののけ)。 愛してはならない"人"と結ばれる。 心を満たす温もりを感じてその身を焦がす様は、生身の者と変わらぬのに。 「あなたが、好きです」 その声は愛しい人の腕の中で冷気と混じる。 凍てつく人の、温もり隠る心とともに(そら)へと消える。 ~fin~
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加