死神の仕事

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死神の仕事

 「――ですから、有坂様に死なれては困るのです」  僕の自殺を止めたあと、久慈さんは丁寧に死神の仕事を話してくれた。勿論、僕に自殺されては困る理由も含めて。  この世界は、一定のバランスで成り立っているらしい。空気や水、生き物から鉱物まで、森羅万象すべてがバランスによって守られている。  例えば、空気中の窒素が今のバランスを保たなければ、僕ら人間は呼吸も出来ないのである。  そして、人間の数――。死神的には、魂の数も一定量を越えて、この世界に存在してはならないらしい。  つまりは――。  「誰かが死ねば、誰かが生きなければならない――って事?」  「そうです。正確には、誕生する事も含まれますが……」  「それなら、僕が死んだら誰かを誕生させればいいじゃん」  「……それなのですが、すでに誕生の順番は管理されていて、欠員は当分出ない予定となっております」  「当分って、どのくらい?」  「向こう二十年はありません」  次の自殺のチャンスが二十年後とは、何とも遠い未来の話である。  それに――と付け加えて、久慈さんは話を続ける。  「今日死ぬ人間は、この管理調に名前のある人間から、選らばなければならない決まりになっています」  「管理調って、タブレットじゃん」  「それで、有坂様の名前がない以上、死なせる訳にはいきません。理解していただけたでしょうか?」  何とも困った話になって来ました。  僕は、自殺する事が出来なくなってしまったからです。さっき、話をしていた内容によると、久慈さんは何があっても僕に自殺をさせない様です。世界のバランスを保つ為、例外はないそうで、仮にこのバランスを崩すと、世界は破滅へと向かうそうです。  僕は、どうしたら良いのでしょう?  ピーピーピー。  突然、アラーム音が聞こえてきました。  どうやら、久慈さんのタブレットの様で、画面を見た瞬間、久慈さんの表情が一変しました。  「これは、大変な事になりました」  「どうしました?」  「これから、命のオーディションをしなければならなくなりました」  「命のオーディション?」  「説明は道中に致しますので、すぐに行きましょう」  「……え!? 何で僕も、行くのですか?」  「それは――」  それは勿論、僕が自殺しない為である。
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