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鎌谷芙美江
一晩明けて、次の日。
正確には、久慈さんに半ば軟禁された翌日のことである。
オープンカフェのテーブルで、久慈さんと紅茶を飲みながら時間を潰していた。
意外かもしれないが、久慈さんは甘い物が好きな様で、三個目のケーキを食べた終えたところだった。
道行く人には、何でもない光景の様に映るかもしれないが、僕の目の前には死神がいる。
「あちらをご覧ください。あの方が、今回のオーディションの対象者でございます」
久慈さんの指し示す先には、年配の女性がいた。
鎌谷芙美江――。
年齢六十四歳。曲がった背中と、白髪が目立つ年配の女性。
おそらくは、病院の帰りであるのだろう。病院近くのバス停で、バスを待つ彼女の顔はどこか優しげで、亡くなった祖母を思い出した。
「あのお婆さんは、何で死ぬの?」
「えーとですね……。自殺ですね」
「自殺? あのお婆さんが?」
「はい」
「あんな優しそうで、幸せそうなのお婆さんが自殺なんてあり得ないだろう?」
「いえいえ。それがあり得るのが、人間なのですよ。一見、幸せそうな人間が、何の悩みを持っていないとは限らないのです。むしろ、幸せそうに見えるからこそ、内面には大きな悩みを抱えている場合がございます」
久慈さんの言葉には、妙に説得力があった。それは、死神として数々の人間を見て来た、経験からの言葉だからだ。
昨晩、自殺しよしていた僕には、とてもお婆さんが自殺する様には見えなかった。
「鎌谷様は、重い病気を患っていらっしゃいます。今日は、担当医から手術の話をされたのですが、成功率は二十パーセント。例え、手術が成功しても、一生を病院のベッドで過ごす事になります。それが、鎌谷様の自殺の原因でございます」
「……」
あのお婆さんに、そんな事情があったとは……。
僕は言葉も出ませんでした。
「では、ケーキも堪能した事ですし、次のに参りましょう」
「次? あの、お婆さんは?」
「鎌谷様が自殺をするのには、まだ大分時間がございますのでご安心ください。それよりも、もう一人の対象者様を見に行きましょう」
「もう一人……」
お婆さんはの事で、すっかりと忘れていたが、これは命のオーディション。
つまりは、もう一人の対象者とお婆さんのどちらしか、生き残れないのである。
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