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聞こえるか聞こえないかの声は、ちゃんと届いている。聞き慣れているはずの蔑みは、この日とても痛く感じた。
城の中はとても華やかだった。煌めくシャンデリア、赤い絨毯、飾られた花々。出席の貴族は男も女も目眩がする程に着飾っている。
「リコリス、さぁこちらへ。紹介を…」
「あの、いいんですお父様。私、疲れてしまって……」
本当は、逃げたかっただけだ。父に迷惑をかけたくなかっただけだった。
困った顔をした父は、それでも呼ばれると行かざるを得ない。気遣いながらも去って行く背に力なく手を振ったリコリスは、部屋の隅へと移動した。
本当なら、こんな場違いな場所に来る予定はなかった。
けれど15歳以上の貴族の子は全員と言われ、王命に背けば父に迷惑がかかると思って承知した。
社交界デビューでもあるこの日の為に、父は綺麗なドレスを用意してくれていた。けれどそれは、今朝ビリビリに破り捨てられ暖炉の中にあった。
残されたのは生前母が着ていた簡素な白いドレスと、履き古した靴のみ。着飾る事を知らずに生きてきたリコリスの唯一の持ち物だった。
みっともないそばかすに、悪目立ちする赤い髪。とても美しいとは言えない容姿に、いつも苦しめられる。
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