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ドン・サファイアの華麗なる最期
ドン・サファイアは僕に「腹上死させろ」としょっちゅう軽口を叩いていたけれど、まさか本当に腹上死するとは夢にも思っていなかったから、荒い息を吐きながら、幼児が母親に甘え縋るようにしっとりと汗ばんだ頬を僕の頬に寄せ、一分の隙もないくらい身体をぴたりと重ね合わせて、まるで眠るような安らかさで息を引き取った時は、僕は悲しみでも痛みでもない、なにか神聖なものをこの腕に抱いているような神々しさと清々しさを感じたのだった。
ドン・サファイアが貴族なのか極道なのか、はたまた政界や財界の大物なのか、僕は彼について、何も知らない。本名すら知らないが、「ドン・サファイア」と呼ばれる名前の由来は、この目で見たから知っている。
僕とドン・サファイアの出会いもまた、衝撃的だった。ある日突然拉致されたのだ。
大学から下宿への帰宅途中、どう見ても一般人には見えない強面の男二人組に突然襲われた。ドラマや映画でよくある、背後から匂いを嗅がされて意識を失うという、あれだ。目が覚めたら僕は天蓋付きのベッドに横たわっていて、両手は頭上で縛られていた。
身悶える僕を、ドン・サファイアが見下ろしていた。眼帯で覆われている右目は分からないが、片目を細めて、冷酷に微笑んでいる。
「……それ以上暴れると、怪我するぞ」
「これ、早く解け! なんだよ、僕がなにしたって言うんだよ!」
パニックに近い状態で泣き叫ぶ僕の脇腹に、ドン・サファイアが触れ、そこで初めて僕は自分が真っ裸であることを悟った。
「お前はなにもしてないけど、俺がお前を気に入ったんだ。いわゆる一目惚れってヤツ?」
さも可笑しそうに笑うドン・サファイアをぎっと睨み付ける。
「今日からお前は、俺のもんだ」
微笑みを浮かべてはいるが、その目は肉食動物のように獰猛にぎらついていて、僕は目が合った途端恐ろしさのあまり固まってしまった。そんな僕に「いい子だ」と囁きながら、ガウンを脱いだドン・サファイアの引き締まった身体が覆い被さってきて、キスされた。
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