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本気で嫌がっていたのは、最初だけだった。
右目は隠されているとは言え、これまで生きていて見たこともないような端正な顔が至近距離まで迫ったかと思うと、厚みのあるくちびると舌、歯も口腔も総動員の激しく濃厚なキスに、僕はなす術もなくとろっとろに溶かされてしまった。
両手を縛られたまま、ドン・サファイアに与えられる圧倒的な快楽に、身を捩り、身体を震わせ、淫らな声で喘いだ。自ら腰を振り、いいとか、もっととか、叫んでいた。初めてのセックスでこのざまだから、ドン・サファイアが上手すぎるのか僕が淫乱すぎるのか、分からないがとにかくその日から僕はドン・サファイアの愛人となり、彼の時間が許す限り、朝昼夜問わずセックスに明け暮れたのだった。
ドン・サファイアが余命いくばくもないと知ったのは、彼に拉致されてから一ヶ月ほど経ったある日の晩のことだった。セックスの後、背後から抱きしめられて微睡んでいたその時、ドン・サファイアが突然苦しそうに呻き始めたのだ。
「なんでもない」と言い張るドン・サファイアを振り切って、僕は「誰か来て!」とドアに叫んだ。この部屋の外で、彼の子分達が二十四時間見張りをしていることは、とうに気づいていた。
僕の叫び声に入ってきた子分達は、横で震える僕などお構いなしにてきぱきと動いた。ひとりがドン・サファイアに薬を飲ませ、もうひとりは携帯電話で彼の様子を報告している。ドン・サファイアは僕に鋭い視線を投げつけながら「逃げんじゃねえぞ」とつぶやくと、あっという間に子分達に運ばれて行ってしまった。
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