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一階のコーヒーショップで、僕たちは遅い朝食を摂る。僕はコーヒーとベーグルサンド、立衛はカフェラテとサンドイッチ、シナモンロールにチョコレートケーキ。「待たせたお礼」と言って、立衛が奢ってくれた。
立衛は細い身体に似合わない大食いで、甘党だ。
僕は、立衛がしあわせそうな微笑みを浮かべながら食べる姿を眺めるのが、大好きだ。
「さっき、夢を見た」
チョコレートケーキを頬ばりながら、立衛がそう切り出した。
「どんな夢?」
「嫌な夢だよ。……聞いてくれる?」
もちろん、と僕は頷く。
「今日と同じ感じなんだ。俺たちは一緒に天神を歩いていて、これからどこか行こうって話になって、地下鉄の階段を下りて行こうとした」
立衛はいったん言葉を切って、僕を見つめる。
「……そこで突然カラスが襲ってきて、俺が階段から墜落する。しばらくして目を開けると、身体がぴくりとも動かないんだ。助けてって叫びたいのに、声も出ない。上から、佳成が、すごく悲しそうな顔で、俺を見つめてる。でも、俺の元には来てくれないんだ。黙って、俺を見つめてる。佳成の肩には、さっき襲ってきたカラスが留まっている」
「……」
「俺は、佳成がそのまま消えて、どこかに行ってしまうんじゃないかって、すごく不安で、心細くて、気がついたら泣いてた。……自分の泣き声で、目が覚めた」
無理に微笑もうとして失敗したのか、立衛の顔がくしゃりと歪んだ。
「昨日ベッドから落ちたから、かな。……変な夢」
僕はカップを握る立衛の細く骨ばった指先に、手を伸ばす。
「今度はちゃんと真ん中でするから」
そう言ったら、立衛がふっと笑った。その顔はやはり淋しそうで、立衛の方こそいまにも儚く消えてしまいそうに思えたから、僕は握りしめた手のひらにぐっと力を込めた。
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