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「……よかった。草間さん、俺のこと死ぬほど嫌いって訳じゃないですよね」
「……」
「ちょっと待っててください」と壁男は壁を抜けて自分の部屋に戻り、しばらくの後、手に箱を提げて戻ってきた。
「今日は両親の結婚記念日なんです。この日はいつも盛大にお祝いするのが毎年の恒例になってるんだけど……俺ひとりぼっちで淋しいから、さっきケーキ買って来ました。草間さんも一緒にお祝いしましょう」
「……それは思いきりお前んちの家庭の事情だろ、」
「まあまあ、細かいことはいいじゃないですか」
壁男の言葉にすっかり脱力した俺は立ち上がり、冷蔵庫のビールを取り出した。「飲むか?」と訊ねると、「来年の二月十日までは未成年なんで、いらないっす」とどうでもいい情報を付け加えてくる。
「草間さんの誕生日は?」
「……十月十二日」
「何歳?」
「……二十一」
「ちょっと過ぎちゃいましたけど、それじゃ草間さんの誕生日祝いも兼ねて」
ビールとオレンジジュースで乾杯して、箱から出した直径十五センチのケーキをホールのままフォークでつついた。
「すげーうまいっすね!」
「……名前、」
「へ?」
「お前の、……名前は?」
口についた生クリームを拭いながら投げやりに訊ねたら、壁男がクリームまみれの顔で、にっかりと笑った。
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