第三章『変化』

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「特に何もないんだけど…」 「何もなかったら、ときめかないでしょう?」 「そうだけど、なんていうか…」 「もしかして、ちゅーされた? それとももう、やっちゃったとか?」 「まさか!」 「愛子…。親友の私は許すよ」 「だからそんなわけないでしょ! むしろその逆で…」 「逆?」 「ソファで健全な読書タイムを共に過ごしたっていうか」 「はー?」 さやかが眉を寄せて、 解せないとでも言わんばかりに目を細める。 「それのどこに、ときめき要素があるの。 手でも握られた?」 「ううん。距離はあったし、それどころか会話もしてない」 「ますますわからない」 「確かに何もなかったんだけど…」 私は、頭の辞書に載っている数少ない単語の中から、適切な言葉を選び抜く。 「……何もなかったけど『中身』があった」 「中身?」 「うん。 触れなくても話さなくても、 『目に見えない何か』がちゃんと存在してたような気がするの。 それが心地よくもあったし、良い意味で緊張もしたっていうか…」 「ふぅん」 伝わったのか伝わってないのか、さやかは無表情でトルコライスの続きを口に運んだ。 私も豚キムチ丼を小さくすくって口に運ぶ。 「…愛子は今、カント様のことどう思ってるの」 「うーん…自分でもよくわかんないんだけど」 「うん」 「好きじゃないんだけど」 「うん」 「むしろ憎たらしいんだけど」 「うん」 「けど…」 「けど?」 そう、けど。 「気になる存在?」 「……それ惚れてない?」 「いや、惚れてないし!まだ!」 「『まだ』って言ってる時点で負けだよ」 「……」
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