第三章『変化』

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* 「違うのよさやか、これは吊り橋効果よ」 「何言ってんのアンタ」 その日の昼休み、やっぱり学校の食堂にて。 私は開口一番、さやかに言い訳をする。 「今朝、奴に一瞬たりともときめいてしまったのは『吊り橋効果』であり錯覚であると」 私は豚キムチ丼を頬ばりながら、さやかに力説する。 「あんた『吊り橋効果』の意味わかってる?」 さやかはトルコライスをスプーンですくいながら返事をする。 ちなみにトルコライスとは何ぞや、と思ったそこのあなたはスマホで画像検索をしてみるといい。飯テロも良いところだから。 「もちろんわかってるよ!」 「説明してみなよ」 「『たわいもない会話や行動を、なぜか吊り橋を渡っているかのように刺激的に感じる錯覚』っていう意味でしょ?」 「……奇跡的な解釈だね」 さやかが呆れを通り越して、感心したような表情を浮かべる。 「違うの?」 「全っ然、違う。 正しくは、 『吊り橋の上のように、恐怖や不安を強く感じる場所で出会った人には、恋愛感情を抱きやすくなる』っていう意味よ。 本当かどうかは知らないけど、心理学の実験でそういう結果が出たらしい」 「えぇ!全然違うじゃん」 「別に驚くことでもなんでもないよ。愛子に常識がなさすぎるのよ」 「……18年間、ずっと勘違いして生きてきた」 「それで、カント様に惚れたって?」 「だから違う!ありえない。あれは錯覚なのよ!」 「何があったのか報告をしなさい」 さやかがスプーンを持つ手を止めて、聞く姿勢をつくる。
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