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「いいよ」
「えっ……」
驚いたのは私のほうだった。
「じゃぁ誓いのキスをしようか」
美樹は地味子さんを抱きしめると、口づけを迫った。
「………なんてな」
「へっ……」
私は地味子さんと同じ声を出してしまったことが恥ずかしかった。美樹は私の頭を文庫で叩いた。
「だから言っただろ。始めっから無視すればいいって。大人しい子をイジメたら、自分のプライドが守られるのかよ?」
「う……」
覗かれたくないところを覗かれた気がした。
美樹は地味子さんに言った。
「俺、面倒くさいのは嫌いだから。本命はこいつね」
そう言うと美樹は私の唇を奪った。駅前で人通りが多いのに。馬鹿じゃないの……。私は慌てて美樹の体を離した。
「やめて!」
いつになく焦ってしまった。どうしよう間が持たない。私は意地悪く地味子さんを睨みつけてしまった。
地味子さんは案外、良い子だった。
「私、フラれたんですね……」
一つ特別な笑顔を見せると、手に持った赤い包装紙のチョコレートを私に差し出してきた。
「頑張って作ったんで、二人で食べて下さい」
このスチール缶のなかには破れた手紙が入っている。それを見られなかったことは、バレンタインデーの神様のおかげかもしれない。
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