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そうして全ての検分を終える頃には日も傾いていた。
「……現状、全項目異常なし。……旧型の、それもプロトタイプとは思えない」
書類に書き込みながら、巳右が呟く。先程の淡々とした声色に、少しだけ感情を滲ませた巳右の呟きは『響』の耳に興味深く届いた。
声色の変化。
それは『響』の中にある集積回路を介し、ある人物の情報を弾き出していた。
「貴女……どこかでお会いしましたか?」
『響』はそう、巳右に訊いた。
目の前にいる女性と、集積回路から引き出されたある人物の声が酷似している。顔も、目元の辺りが酷似している。が、しかし、照合率が百パーセントでは無かったため、確定は出来なかった。
そう訊かれた巳右は書類からちらりと『響』に目を遣っただけで、何も言わず、鞄に道具を仕舞いはじめた。
『響』はその様子をじっと見つめたが、いっこうに答えは返ってこない。
沈黙のまま、巳右は全ての道具を仕舞い終え、鞄を手に立ち上がった。
「次のメンテナンスは二週間後です」
来たときと同様、淡々とした声で巳右はそう言い、『響』に背を向けて立ち去ろうとした。しかし、数歩行ったところでその足を止めた。それからおもむろに『響』を振り返る。
「……貴方とは初対面です。ですが、貴方の記録に私の顔に酷似した情報があるのだとすれば、それは当然です」
そこで巳右は一度言葉を切った。
「だって私は──貴方が殺してそこに埋めた──双六巳左の妹ですから」
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