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ぐずぐずとボールをこねくり回していたら、やれやれ、と呆れた声が笑って
「いつでも会えるでしょ。別に引っ越すわけでもなんでもないんだから」
「……」
まるで駄々をこねる弟を諭すような優しい口調に打ちのめされながら、だったら、と顔をあげた。
「司くんの学校に遊びに行っていい?」
「ぇ?」
「放課後。行っていい?」
「……いいけど……」
「勉強も教えて。2年後、困らないように」
「……晃太?」
泣くなよ、と伸びてきた優しい指先が頬を拭ってくれる。
「待ってて、司くん。……絶対同じ学校行くから」
「晃太……」
「待ってて」
渡せなかった御守りが、ポケットの中で重みを増したような錯覚。
固い決意を込めて見つめた先で、困惑していた司くんが微笑ってくれる。
「だから、待ってるってば」
大丈夫だよ、と頭を撫でてくれる手のひらを素直に受け止めながら、ゴシゴシと顔を拭いた。
「約束だからね」
置き去りにするしかないボールを体育倉庫の扉の前にそっと置いて、小指をたてた右手を差し出す。
「約束だからね」
「……ホントにもう」
呆れて笑う顔には、もう淋しさは浮かんでいない。
「待ってて」
いつか。
弟じゃなくなるように頑張るから。
「待ってて」
差し出された華奢な小指を、ほどけないように強く絡めた。
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