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ぐっとボールを持つ手に力が込もって、気づいたら体育倉庫に向かって体が勝手に走り出していた。
「ちょ、コータ!?」
「すぐ戻る」
驚く友人の声に適当に返しながら、後ろも振り返らずに走る。
ポケットの中でカサコソ音を立てる2つの御守り。
きっとボールを自分に見立ててた。転がってるボールが淋しそうに思えたのは、司くんが淋しかったからだ。1人で平気、なんて雰囲気を醸し出しながら、たぶん誰よりも1人でいるのが淋しかったんじゃないか、なんて。
思いながら走り着いた体育倉庫は、鍵がかかっていた。
「ちょっ、なんで閉まってんの!?」
ばんっ、と倉庫の扉を思わず叩く。当たり前だ。今日は卒業式。体育倉庫なんて誰も使わない。そんなことは分かっているのに、言わずにはいられなかった。──だって、まるで、何もかもを拒む司くんの心みたいじゃないか。
くそ、と土を蹴りつけて唇を噛む。置いてきぼりを食らったボールを片付けられなかっただけなのに──それ以上の意味を見いだしてしまったがために、このまま置き去りにはできなくなってしまった。
ボールを抱えてしゃがみこんでいたら、ざくざくと土を踏みしめる音が聞こえてノロノロと顔をあげる。
「…………なに、またボール拾ってたの?」
「つかさくん……」
どうして、と呻くみたいに呟いたら、司くんは照れ臭そうに笑った。
「他の誰が見送ってくれなくてもなんとも思わないけどさ。さすがに晃太が見送ってくれないのはヘコむ」
「司くん……」
何言ってんの。そうやって無防備に思わせ振りするのやめてよ。期待したってどうせ無駄だって分かってるのに酷くない?
「……見送ってくんないの?」
そんな淋しそうな顔と声で……ホントに、ずるい。
「………………卒業、おめでとう……」
「全然おめでたく聞こえないよ」
「だって……」
照れ臭そうに笑った司くんの顔を見ていられなくて俯いたら、頭の上から司くんの優しい声が降ってきた。
「2年後、待ってるから」
「……2年も会えないの、ヤダ」
「……晃太?」
「やだ。卒業しちゃやだ」
「何言ってんの、ちっちゃい子みたいだよ?」
どうした? と優しい声が聞いてくれるけど、首を横に振って駄々をこねる。
「2年も待てない」
「晃太……」
「やだ」
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