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振り向かなかった藤澤先輩の正面に走り込んで、耳まで真っ赤にした藤澤先輩を真っ直ぐ見つめる。
「だから、……手伝っていいですよね」
「……好きにしなよ」
視線を逸らした藤澤先輩がもごもご口の中で呟くのが──可愛い気がして。
「藤澤先輩」
「…………それ」
「?」
「いいよ、別に。長いでしょ」
「何が?」
「その……藤澤先輩ってやつ」
「ぇ?」
「司でいい」
「いや、それはさすがに……」
「いいよ」
呼んでみ、と先輩のいたずらっ子みたいな目が笑う。
「…………司、先輩」
「先輩いらない」
「いりますって!」
「んもー、律儀だな」
「律儀とかの話じゃないと思いますけど!?」
「なんかさ、先輩とかさ、なんかこう……もぞもぞしない?」
「もぞもぞ?」
「なんか、こそばゆい」
「……先輩って言われるのが嫌なんですか?」
「うん」
こっくり頷く姿は、小さな子供みたいでやっぱり可愛くて──
「…………司、くん」
「……んー……ま、いっか」
「さすがに呼び捨ては無理ですからね!?」
納得していない顔も、小さな子供みたいだ。
男だし、オレより2個も年上だし。なのに可愛いなんてズルい。
淋しそうな顔してみんなを見てたり、置いてかれてるボールを優しい顔して拾ったり。
(ずるいよ、こんなの……)
そこらの女子より可愛いなんて、ホントにズルい。
「敬語もいらない」
「いらなくない!」
「んもー、頑固だなぁ」
「むしろ司くんが頑固だよね!?」
「んもー」
きゅっと上がる口角。綺麗な形の眉が柔らかく弧を描いて、眉尻が優しく下がる。いたずらっ子みたいにキラキラ輝いていた目が、嬉しそうに細められる。
ドキドキする、こんなの。
ポンポンとボールを優しく撫でた手のひらを見るでもなく見つめながら、ボールと代わりたいなんて思う日が来るとは思わなかった。
「もっと……」
「ん?」
「早く出会いたかったな……」
「何?」
「司くんと」
「…………何言ってんの」
「もう卒業しちゃうじゃん……」
「ばーか。まだ半年以上残ってるよ」
わし、と。
いきなり伸びてきた手のひらが、一瞬だけ頭を撫でて離れていく。
「勝手にしんみりすんな」
笑った顔はやっぱり綺麗にキラキラしていて、故意に撃ち抜かれた気がした。
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