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男が男に恋するなんておかしいし気持ち悪い。──頭の中では、冷静な自分がそんな風に嘲笑する。
なのに、好きな気持ちは冷静な声を無視して昂っていく。
楽しそうに笑う顔。ふざけて怒ったフリして膨らむ頬。優しい瞳はいつも柔らかい曲線を描いてオレを温かく包んでくれる。
誰かを傷つける言葉を絶対に紡がない唇は、哀しそうに引き結ばれたり淋しそうに笑ったりしながら、オレにだけは無邪気に笑ってくれた。
──こんなの、好きになるなっていう方が難しいに決まってる。
溜め息は誰にも聞き咎められないように吐いたはずなのに。
「晃太、なんかあったの?」
「ぇ?」
いつものように二人きりで片付けをし終えた体育倉庫で、司くんが心配そうな目をオレに向けてくれる。
開いたドアから差し込む夕日は、司くんの優しい目元を更に優しく彩るから──困った。
「……なんで?」
「溜め息吐いてた、さっき」
「……なんで気付くかなぁ……」
「? 何?」
小さくぼやいた声に首を傾げる可愛さ。
キョトンとした目は、相変わらずオレンジに彩られて優しい。
溜め息をついていたのはミーティング中だった。周りにはたくさん人がいたのに、司くんだけが気付いて声をかけてくれた。──これで好きになるな、なんて酷い。
「…………なんでもないよ」
「ホントに?」
「ホントに」
じっと至近距離で見つめられながら、どぎまぎしてるのは自分だけなんだろうなと思ったら、もう1つ溜め息が零れそうになったけどグッと我慢だ。
「…………ならいいけど」
ふぃっと逸れた視線にホッとしながら、だけど黙々と片付けを再開する司くんの雰囲気がいつもと違うような気がしておろおろする。
「……司くん?」
「……何」
「……なんか、怒ってる?」
「別に」
「……あの、司くん?」
「何」
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