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「ばーか。また勝手にしんみりしてたの?」
「……」
にゅっと伸びてきた手のひらが、ぱふ、と頬を叩いてわしわし頭を撫でてくれた。
「まだ8月だから。部活は今日で終わりだけど、まだ卒業まで半年あるし。学校には来てるから」
「……それはそうだけど……」
「……晃太がホントに受験すんのは2年後なんだし、そんな焦って決めなくていいんじゃん? とりあえず、気持ちだけ受け取っとく」
ありがと、と付け足した司くんがわしわしと頭を撫でてくれるのが、子供扱いされてるみたいで悔しいのに、嬉しくて苦しくて。
「どこ行くの、高校」
「……なに、ホントに来るの?」
「行くよ、絶対」
頭に乗っていた司くんの手に恐る恐る触れて、キョトンとした顔する司くんが嫌がってなさそうなのを見たら、一か八かで華奢な手をギュッと握った。
「絶対、一緒のとこ行くから」
待ってて、と告げたら、ふ、と優しく笑った司くんが頷いてくれた。
「ん。分かった」
*****
部活に3年生が来なくなってしばらくの間は、全然練習に身が入らなくて先生や先輩達には随分怒られた。
1人だけランニングの周回数を増やされたり、筋トレメニューが増えたり。散々な目に遭いながらも、ボール拾いだけは続けていたある日のこと。
「…………まだ続けてたの?」
「っ!? 司くん?」
後ろから突然声をかけられてびくんと跳び跳ねて振り返ったら、よく知った顔が呆れたみたいに笑っていて。
「ぁ……だって、可哀想じゃん。……こんなとこで、置いてかれてるの」
「…………だね」
しどろもどろに答えながら拾ったボールをバシバシ叩いていたら、ふふ、と柔らかく笑った司くんがまた無防備にオレの頭をぐりぐり撫で回してくれる。
久しぶりの感触は、泣きたいくらいに優しくて嬉しくて、やっぱり苦しいのに幸せだ。
「……司くんこそ、どうしたの? 居残り勉強?」
「ん……ちょっとね。…………無理目のとこ第一志望にしちゃったから、担任に色々言われてたとこ」
「……そうなんだ……」
「……でも頑張んないとね。だって晃太が来んの待っとかなきゃだし」
少しだけ疲れた顔した司くんが、くしゅ、と切なく笑う。
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