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初めて聞く弱音を慰める暇もなく自力で昇華させるその理由に、自分の名前が入っているのが誇らしくて苦しい。
オレの気持ちには気付いてないらしい司くんは、どこかから拾ってきたらしいボールを手の中で弾ませながら、何かを堪える表情でボールの動きを目で追っている。
「……司くん」
「んー……?」
「オレ……」
「ん?」
キョトンと首を傾げた司くんの手が、弾ませていたボールを受け止めて止まる。ばふんばふんと鳴っていた音が止んだだけで、奇妙なまでに静まり返るグラウンドの隅。
ばくんばくん鳴っているオレの心臓の音は、司くんに聞こえたりしていないだろうか。
「……オレ」
「うん?」
「……おれ……」
言い淀むオレを真っ直ぐ見つめてくる瞳は、何も疑わずに綺麗に光っているから。
昂っていたはずの心が急速に萎んでいくのが分かる。
続きの言葉を思い付けずに思い悩んでいたら、司くんの顔が怪訝な表情に変わっていくのが居たたまれなくて、あわあわと言葉を探した。
「……、そのっ……今度、……勉強、教えて」
「は?」
「オレも! 同じ学校行きたいから! 勉強! 教えて!」
「…………何言ってんの」
無理目のとこ狙ってるって言ったでしょ、と。
切なそうに笑った司くんが、ふ、と小さく息を吐いたら。
「…………じゃあホントに頑張んなきゃだね。……待ってるだけじゃなくて教えなきゃいけないんだもんね」
「つかさく……」
にっこりと悩みを振り払った清々しい顔で笑ってくれる。
「ありがと、晃太」
「ぁ、……いや、……オレは別に……」
何もしてない、と蚊の鳴くような声でもごもご呟きながら。
初めて見た力強い笑顔は、改めてオレを惹き付けて──離してくれなくなった。
*****
放課後の図書室なんて一生縁がないと思ってたのに、部活終わりにバタバタと着替えてダッシュする日が続いている。
オレの顔を見るなり優しい顔してくれる司くんは、お疲れ、と笑って目の前の席を示してくれた。
「こないだのテストどうだった?」
「そう、それ! 今までで一番良かったんだ!!」
「しーっ、図書室だから!」
「ごめっ」
興奮してはしゃぐオレの目の前で、唇に人差し指を添えて嗜める司くんの声も嬉しそうに笑っている。
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