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「やりぃ!ぱ、い、な、つ、ぷ、る!」
「ぐ、り、こ!」
「あー今度こそっ!」
何度もじゃんけんを繰り返しながら、少しずつ階段をのぼっていく。先にいちばん上まで登り切ったほうが勝ち。ただそれだけなのに、あたしは小さいころ、この遊びが大好きだった。
あたしの名前は“ちよこ”で、お兄ちゃんは“れいと”という。
由来は間違いなく、お母さんがチョコ好きだから。なんて単純なんだろうって呆れちゃうけど、
“ち、よ、こ、れ、い、と”
2人の名前が入ったその6文字を口にするとき、あたしはちょっとだけくすぐったい気持ちになる。
「ち、よ、こ、れ、い、と!」
ぴったり言い終わるのと同時に、あたしは階段のてっぺんにたどり着いた。
「やったあ!ゴール!」
「あと一歩だったのになー」
お兄ちゃんは悔しそうに言って、てっぺんの一段したに、そのまま座り込んだ。
あたしがてっぺんに座ると、ちょうど同じくらいの目線になる。
お兄ちゃんの柔らかい茶色の髪が、ふわふわと風で揺れる。空はもう日が沈みかけていて、チョコレートをかけたオレンジみたいに混ざりあっている。
「お兄ちゃん」
あたしは空を見上げながら言った。
「ん?」
「好きなひといる?」
「いるよ」
「その人にはもらえなかったんだね、チョコ」
「……ほっとけ」
お兄ちゃんも空を見上げてぶっきらぼうにそう言った。
どうやら図星みたいだ。お兄ちゃん顔に出やすいから、落ち込んでることくらいすぐにわかる。
きっと好きな人からのチョコなら、嫌いでもなんでも頑張って食べちゃうんだろうな。その人の目の前で、おいしいって笑うんだろうな。
「ほら、帰るぞ」
「うん!」
だからそれまでは、仕方ないからあたしが代わりにチョコを食べてあげるんだ。
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