ち、よ、こ、れ、い、と

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家のすぐ横の坂道に沿って、人がギリギリすれ違えるくらいの細長い階段がある。傾斜が急で危ないからって、大人には不評だけど、子供はそういう場所で遊ぶのが大好きなのだ。 小さいころは、よくその階段で遊んだ。日が暮れるまで飽きもせず、あたしたちは階段をのぼったりおりたりした。 ぐ、り、こ。 ち、よ、こ、れ、い、と。 ぱ、い、な、つ、ぷ、る。 あたしは心の中でつぶやきながら、昔みたいに一段一段、階段をのぼったりおりたりを繰り返す。 「あ」 階段をおりる途中の真ん中あたりで、あたしは足を止めた。 前の通りを歩く、その姿を発見したから。 あたしは急いで駆け下りていって、勢いをつけてジャンプした。 「お兄ちゃんっ!」 「うわっ!」 いきなり飛びだしてきたあたしに、お兄ちゃんは本気でびっくりしたみたいだった。手に持っていた袋をバサッと地面に落とした。 「それ、なに?」 「なにって、チョコじゃないの。バレンタインだし」 お兄ちゃんはとくに恥ずかしがったり隠したりすることもなく、しれっとそう答えた。 「誰にもらったの?」 「女子」 「ふうん。お兄ちゃん、チョコ嫌いなのにね」 「ちいにやるよ」 「やった、バレンタインっていい日だね!」 あたしは飛び上がって喜んでみせた。
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