ち、よ、こ、れ、い、と

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お兄ちゃんは、高校に入ってから急に大人っぽくなった。背がぐんと伸びて、メガネをコンタクトにしたり、ボサボサだった髪を切ったりして、そしたら急にモテるようになった。 去年までバレンタインなんて無縁だったくせに。まったく、油断も隙もないんだから。 「ねえ、グリコやらない?」 「は?」 お兄ちゃんはぽかんとあたしを見た。 「ねっ、いいでしょ、久しぶりにさ」 「……おまえ、もうすぐ中学生だろ?」 「まだ小学生だもーん」 「ていうか、おれ荷物あるし」 「そんなの、置いとけばいいじゃん。誰もとってかないって」 言いながら、あたしはずんずん階段をのぼっていく。 「しょうがないなー、1回だけだぞ」 お兄ちゃんは鞄と紙袋を階段の脇に置いて階段をのぼってくると、あたしと同じところにピタリと立った。 「じゃあいくよ。さいしょはグー、じゃんけんぽん」 「やった!あたしの勝ちー。ぱ、い、な、つ、ぷ、る!」 あたしは、トントンと階段をのぼる。 「くっそー次は負けねー」 悔しそうに言うお兄ちゃんを見て、あたしは心の中でふふんと笑った。 バレンタインなんて大嫌い。 他人だからって堂々と好きなひとに気持ちを伝えられる彼女たちが嫌い。 お兄ちゃんがチョコ嫌いなことも知らずに勝手に浮かれてるだろう彼女たちが嫌い。 だからこれは、あたしのひそかな嫌がらせ。 お兄ちゃんはクールぶってるけどじつはすごく負けず嫌いだから、もうすっかりチョコのことなんて忘れ去って、あたしの次の手を真剣に考えているに違いないのだ。
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